社宅見学会

２−１−９　白川アパート

 

平原アパート完成後、昭和32年（1957年）、33年、34年の３期に分けて建設された３階建て90戸の鉄筋コンクリートのアパート。この社宅は棟番号が１棟から７棟まであったが、実際に建っているのは６棟であった。棟番号５棟が建てられるはずだった区画は、盛土の造成だけ行われ、半分はプール、半分は鉄棒のある広場とされていた。昭和40年代中頃に４棟の棟番号は５棟に変えられた。

 

 

社宅は上官アパートより仕様が数段高く、専用風呂付きの３ＬＤＫ（6帖。4.5帖、3帖）、リビングにはグリーンのビニールレザーを張ったソファが標準装備であった。

リビングにはガスストーブが使えるよう、ガスの元栓が付いていた。

公園、グラウンド、自転車（バイク）小屋、遊泳用プールなどの共同施設も充実していた。自転車小屋前の広場は、後に駐車場にされるが、昭和40年代中頃までは自動車は少なく、ラジオ体操などで使っていた。

平成24年（2012年）に解体され、戸建住宅地として分譲された。

 

【筆者の生活史】

転居したばかりの頃は、珍しさもあってガスストーブを焚いていた。社宅に引かれていたガスは「会社のガス」と呼んでいた。コークスを製造する過程の副産物のガスで、それを社宅に引いていると聞いたことがある。しかし、このガスには硫黄成分か何か匂いがする成分が含まれていて、リビングのガスストーブには適さないとなって、後年、ガスストーブは使われなくなったという話だった。「（成分が違う）輸入炭になったけんやろうか。」という会話も聞いたことがあるが真相は不明。

 

 

アパートにはダストシュートというごみ捨て用のシャフトが設けられていた。上階の住民は１階まで降りることなく各階に付けられたダストシュートの扉を開けてごみ袋を放り込めば、自由落下で１階のごみ集積場に落ちるというものであった。しかし、ごみを回収する人、ごみ集積場を清掃する人にとってはこのダストシュートは非常にやっかいなものであった。ごみ袋は自由落下の衝撃で破れ、中のごみがバラバラになって散乱するのである。白川アパート時代、ごみ置場の中の悲惨な様子を何度も見た。ダストシュートは上官アパートにはなかった設備であるが、昭和30年頃から40年代にかけて流行した設備である。驚くことに５階建ての高泉団地にも設けられていた。５階から捨てられたごみがどうなるか、想像に難くない。よほど横着な人が考えたものであろう非人道的な設備である。後にダストシュートは全てのアパートで使用されなくなった。

 

白川アパートに引っ越してきて、初めて社宅のプールというものを体験した。夏休みは白川小学校のプールが開放され、校区内の部落に割り当てがあった。白川アパート（当時の部落名は「白川東」）にはプールがあったので割り当てなし。しかし、毎日入れるマイプールがあったので関係なし。夏の筆者は真っ黒に焼けていた。有刺鉄線の柵はいただけなかったが、このプールで心肺機能が育まれたと思う。シーズンオフは防火水槽となるのだが、堂面川や三池干拓から釣ってきたフナやコイ、ハエを放流して釣り堀にしていた。

社宅のグラウンドにはバックネット付きの野球場とバレーコートがあった。あまり使われていなかったから、行けば使い放題だった。電線がない空間だったから凧揚げもやりやすかった。

 

 

東圧社宅の世帯は、子どもの数や成長に合わせ、広さ、場所を考え、社宅間を転居する人が多かった。さながら社宅双六（すごろく）であった。我が家の社宅すごろくは白川アパートまでの３社宅。両親は持ち家を建てて「上がり」となり、楽しくてしょうがなかった社宅生活に別れを告げなければならなかった。父は、会社は社宅の低家賃で社員に貯蓄をさせ、持ち家を取得させ、後々は社宅を減らしていく戦略と言っていた。果たして、会社の人員削減も進み、そのとおりになった。

 

大規模社宅ではモノを共有する。少なくとも昭和中期までは大多数の人はモノを共有しなければ生きていけなかった。モノを共有すればコミュニケーションが生まれる。社宅の楽しさは生活の共有であり、それがゆえに共有するモノが少ない社宅外の人たちに対して閉鎖的になる。もちろん社宅外にも友だちはたくさんいたが、閉鎖性という空気は住んでいれば何となく感じていたのではないだろうか。筆者の感想は、石炭の宮の原社宅のページで紹介した農中さんと共通している。

 

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